モダンスイマーズ「だからビリーは東京で」事実は小説よりも奇なり コロナ禍の芝居人達の記録
モダンスイマーズ蓬莱竜太をもう長年ウォッチしているパートナーが、最高傑作だ、是非見て欲しいと言っていたので、ギリギリセーフでチケット取りました。Yahoo!ニュースより。
あらすじは、ミュージカル「ビリーエリオット」を、たまたまチケットを譲ってもらって観に行った、田舎から東京の大学に出てきた青年の話。少年ビリーのダンスやミュージカルのパワーに圧倒され、あんなもの初めて見た!と開眼し、自分も芝居をやりたい!と思う。劇団の面談に行き、合格する。
「ビリーエリオット」といえば、柚希礼音、安蘭けいが出ていた、あのミュージカル。子役達のオーディションもあったりで、盛り上がっていたパワフルなミュージカルですよね。ああ、あのビリーが見事バレエダンサーとなって、その後どうなるのかな、って青年は考えた。2017年の夏。
門を叩いた劇団は、脚本家と団員4人。難解芝居が売り?いまいち客に届いていないと演者は実感していて、何やらこの人たちの会話が、凄く面白い。客に感情移入できる作品が良作というのか?難解じゃダメなのか?セリフを感じろ!こうやって芝居は出来上がっていくのかなと、面白かった。あまりにもリアルで。
青年は田舎に残した居酒屋の父に年1回は会っている。食えない芝居なんてやってどうすると言われる。
そしてジワジワ来る2020年。突然のように不要不急の時代の到来、コロナ禍に身を置く事になった。芝居をやっていいのか、観客を呼んでいいのか。在宅ワークで逆に儲かっちゃったり、韓国にいる彼氏と逢えなくて浮気したり、一人っきりが辛くてLINEで心のつながりを求めたり、小さな劇団員の面々の不協和音、かなりリアルです。
青年は劇団の女性と半同棲、ウーバーでバイトしている最中にちょっとした交通事故にあう。でもその中で難解芝居のセリフの意味が解るようになってくる。これか!と。ラジオ、帯域の中泳ぐ、周波数、波動…?やっぱり芝居を続けたいな。。
久しぶりに皆でマスクをつけて稽古場で集まる。そこで一人一人の近況報告と、これからについて告白が始まる。すっかり変わってしまったのだ。でも、だから気づいた「芝居をやろう。自分達の事を戯曲に書きたい。自分達だけのためでいい、最後の芝居を」。そんな内容だったと思う。
青年がコロナ禍で田舎の父を訪ねるシーンが、本当に辛かった。飲食店には補助金がでる。父はいつもに増して酒に溺れ息子にあたる。一人寂しくしている。なんなんだ、父が弱いからか?寂しい人だから?
何もかもに嘘が無い。全て本当に最近、いや今も続いている物語だから、よけいに笑えて泣けてくる。
こんなに奇妙な時代はめったにない。事実は小説より奇なり。この瞬間を感じて戯曲にしない手はない。そして辛い局面を感じている全ての人達に、優しい気持ちを向けて向き合っていければいいのかなー、と。
宝塚を観ている私としては、公演停止期間中に彼女たちはどんな思いでいるのだろう、製作スタッフ、演出脚本家は何を表現したいと思うのだろうと、疑似体験してしまう。こんな時代は今まで経験してこなかったし、だからこそ今感じる気持ち、芝居で演じたあのセリフ、色々理解したり考えたりできる瞬間かなとも思う。
そして芝居をしたいという気持ちが改めて湧いてくるのなら、やればいい。誰のためでもなく、自分と仲間のためだけに、でもやればいいと思う。なんだかそれが解って、私も芝居人達の気持ちが理解出来た気がする。スキっとした涙で溢れた。
今観ないでいつ観る?そんな芝居でした。若い人が客席に多かったなーという印象でした。
モダンスイマーズ「だからビリーは東京で」
2022年1月8日(土)~30日(日)
上演時間:1時間45分
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト
作・演出:蓬莱竜太
全席3500円自由席って、お得だなー、こんな素晴らしい芝居が見れて感謝。