音楽劇「ある馬の物語」感想 成河 演じる馬に感情移入 別所哲也にみる哀れな人間の姿 音月桂 出演
少し時間が経ちましたが、世田谷パブリックシアターで上演された音楽劇『ある馬の物語』について、感想を残したいと思いました。
あらためて公式HPを見ると、3年越しの上演。演出家の白井晃の世界観が、やっぱりお洒落で、世田谷パブリックシアターという劇場をふんだんに生かした、まさに厩舎を取り囲んだ夜の野外劇場のような、そんな気分の空間で観劇しました。
一言で言うと、”衝撃😳” でした。
なんという音楽劇なんだろうかと…。ナタリーさんより。
テーマが重い😞。ちょっと考えさせられる内容だった。でも、最近思う自分の気持ちと重なる点もあり、シンクロ感が怖かった。
人間とは、何て愚かな生き物なのだと。
他の動物から教えられるなんて。
トルストイ原作「ある馬の物語」がベースとなっているとのこと。配役とポスターを見て、誰が馬で、誰が人間なのか?ワクワクしました。素敵なポスター!キム~😀。
成河、小西遼生、音月桂が馬の役。頭をたてがみのようにリーゼントを作り、主人公はブチの馬。黒い毛並みのサラブレッド牡馬は、全身黒のダンサーのようなスマートな感じ(体力は無さそう)。牝馬はお洒落な全身グッチのブランド服を纏うような可愛らしさ。
タテガミとシッポと、馬のような動きで、人間に飼われた馬を表現。俳優の表現力は無限だなと驚いた。馬にしか見えない…。公式トレーラーは必見。
4名のサックス奏者の音色。あの不協和音のような、ジャズのようなお洒落な世界観。改めてこの舞台の衝撃度を垣間見れると思う。
簡単なあらすじ※ネタバレ・感想あり
公式HPより引用です。
ホルストメール(成河)は、天性の俊足を持つ駿馬だったが、人間の嫌う「まだら模様」に生まれついたがために、価値のない馬と見なされて育てられた。
ある日、厩舎に凛々しい公爵(別所哲也)が現れた。厩舎の主人は見た目の美しい馬をすすめたが、公爵は一目でホルストメールの天性の素晴らしさを見抜き、彼を安価な値段で買い取った。公爵との生活はホルストメールの生涯で、唯一の輝かしく幸福な日々となった。
だがある日、公爵の気まぐれから、ホルストメールは競馬に出走することになる。その競馬場で公爵の愛人マチエ(音月桂)は、若く美しい将校(小西遼生)と出会い姿を消してしまう。公爵は気が動転し、ホルストメールを橇に繋ぎ激しく鞭打ち走らせた……。
主役は、ブチ馬のホルストメール🐴(成河)。父も母も優勢遺伝子を持っている馬なのに、突然変異か、まだら馬として生まれてしまったのが運命の始まり。
余談ですが、馬は遺伝子の結果をもろに受けるらしく、サラブレッド同士掛け合わせ、速い馬を育てていくと、競走馬を持っている女性から聞いたことがあります。牡馬と雌馬のカタログを見せてもらった事があります。精子の価格って言うんでしょうかね…。凄い世界だと思いました。
厩舎で出会った牝馬(音月桂です)と愛し合い、看守からこっぴどく怒られ、なんと…去勢させられるんですね😢。もうこのシーンが強烈ですよ。天井の高い舞台上からホルストメールは吊るされ…。これは再現場面でしょうか、リアルです。
動物を飼っている方は、去勢手術、しますよね?増やさないために。あれがちょっともう、受け入れられなくなりました。同じように人間もそうさせられてるんじゃないかと気づいて、背筋が凍ります。
全然貰い手が無い所、お金持ちの公爵(別所さん)に安値で買われ、パートナーのように楽しい時間を過ごします。本来は良い遺伝子を持っている馬ですから、本領発揮!公爵のためにどんどん働きます。
公爵の若い愛人(これも音月桂です)と一緒に競馬に出かけ、そこにホルストメールは出場する事になります。大活躍🐎している最中に、愛人は素敵な将校(小西遼生)と逢引…。愛人を取られてしまいます。
気が狂うように愛人を奪い返したい公爵。ホルストメールはボロボロになるまで馬車を飛ばし愛人を探し続けます。しかし、戻っては来なかった。
公爵はちょっと人が変わってしまい、お金も尽きてしまい、ホルストメールはもとの厩舎に戻ってきました。老いた去勢馬。彼を取り巻く若い馬たち。ホルストメールの人生に何があったのか?回想し始める、という物語の始まり。「ある馬の物語」が始まるのです。
ホルストメールは最後は死んでしまいます(というか、処分されます)。これももう辛すぎる😵。
でも彼は淡々と、人生を終えます。馬の肉は食料に、骨は何かの道具に、綺麗に全てを活用されて何も残らないそうです。
それに引き換え、所有するだけしてきた老いた公爵は、結局人間1人入るだけの棺桶スペースに葬られます。誰の役にも立たずに。人間ってなんなんだと、死んでみて実感する事がある。
そんなお話だったかと思います。
人間は何て愚かな生き物か
どれだけ所有するかに価値を置く 人間
所有する事に価値を持つ人間
これがテーマの一つになっていました。ぞっとしましたね、こんな風な気持ちを持つのは、地上の生物の中で人間だけじゃないでしょうか。
頭の良い馬からみたら、人間って欲深いよなーって思っているんでしょうね。馬は誰のものでもないのに、人間が「俺の馬だ」と、私の、俺のってうるさい。やれブチだとか、やれ速いとか、うるせーよって(笑)。
資本主義の世界に生きる人間・私達にとって、自由意志で欲しい物を手に入れる。それが人生って感じになっている。
でも、そもそも生き物は、誰のものでもないよ。そう思って普段生き物と接しているだろうか?と我に返ります。
動物・植物共、共生ができない人間には、どんな運命が待っているのか…
そう考えると、人間ってこの世に居ていい事あるのかと、思う位です。
平和な世に刺激与えるのが、人間?
逆に言うと、動物・植物の世界に、私達人間はお邪魔させてもらってるのかしら。彼らに刺激を与えるために、道化師・人間として一生懸命エゴ満載で生きているのかな、って逆の目線で思いました。
ある意味愛らしい存在・人間。
人間って、欠陥があるからこそ生きる価値がある。この世は修行の場って思えばいいの?
誇りを持って生き抜いたホルストメールから、人間らしさと、馬の気高さみたいな何かを、教えてもらった気分になりました。
俳優達の表現力の素晴らしさに感動
今一番旬な役者、成河。素晴らしい!
私が初めて舞台で拝見したのは、「エリザベート」のルキーニ。あれから随分時間が経ち、本当に色々な作品に出演されている。そして今回、この巡り合わせ。何にでも染まれる存在、聞きやすい声、身体能力の高さ。
辛い場面が沢山ある中、最後の最後で、淡々と死んでいく、その結末を聞いていると、本当に”人間の感情が無い”馬として、話していると感じられました。衝撃のお役、彼の代表作と言っても良いのではないでしょうか。
そして、お久しぶり!ジャン・バルジャン。公爵が本当にお似合いの別所哲也。私は別所さんのファンです😍。
晩年の人の哀れさが本当に秀逸で「ベニスに死す」の主人公が最後死んでいく様を見ているような迫力だった😃。権力と品位があった、哀れな老人の最期。昔はパートナーであった、まだら馬との比較。なんて惨い、可哀そうなんだと胸が苦しかった。
そしてそして、キム。音月桂。最近彼女の舞台は裏切らない。っていうか、辛い舞台が多い(笑)。何とも言えなくなる、そこが魅力的になってきているよね。
言い方悪いけど、清廉潔白でない、女の汚い部分をサラっと自然体で表現できる女優さんになっている。ある意味人間らしい、許容範囲の広い女優。
いよいよ馬か~って思った😆!ダンスの要素もあるし、身体能力の高さをいかせる。純粋ながら素敵な牡馬になびく所とか、モガの雰囲気漂う公爵の若い愛人役がハマってる(将校になびく)とか。メスとして生きていれば、素敵なオスに引き寄せられるのは本能だろうし、とても魅力的です。
その牡馬&若い将校役 小西遼生とキムのコンビは何度か見ている。阿吽の呼吸。成河と対照的な、スマートな馬、男性像は際立ちましたね!文句なくカッコいい😍。
他の馬の皆さんは、衣装や表現力が更に馬っぽくて、裸馬のように美しくたくましい存在。
それに引き換え(失礼)、人間の方は馬よりもくたびれて(演じてるという意味で!)、意地悪で、負け犬感たっぷりで、本当に見ていて気分が悪い。
この気持ち、「蜘蛛女のキス」を思い出す。政治犯の囚人は志があって立派で強く、刑務所の警官は意地悪で下品ではしたない。
どっちが正しいんだよって、思うこの気持ち。
この舞台を直視するには、ちょっと心をしっかり持たねばって思う。でも、人それぞれ。若い頃に観ると、もっと新鮮に、ダイレクトにこのメッセージを受け取れるのかもしれません。
年取った私達の方が、ずーーん。。って来るというか、考えちゃいますね。
直ぐにスタンディングオベーションで、皆立ち上がって拍手喝采👏👏でした。
こんな衝撃的な舞台を観れたんだもの。役者、音楽、舞台演出、全てチャレンジングで凄い物を目撃した!という思いです。
舞台美術は松井るみさん、でしたね~。今回は結構エグかったです。
音楽劇「ある馬の物語」
2023年6月21日~7月9日 世田谷パブリックシアター
2023年7月22日 23日 兵庫芸術文化センター中ホール
第1幕 70分 休憩20分 第2幕55分(合計約2時間25分)
【上演台本・演出】白井晃
【出演】成河 別所哲也 小西遼生 音月桂
大森博史 小宮孝泰 春海四方 小柳友
浅川文也 吉﨑裕哉 山口将太朗 天野勝仁 須田拓未
穴田有里 山根海音 小林風花 永石千尋 熊澤沙穂